白みかん

白みかんは、おいしいみかん。みかんを剥くのがうまいよ。

成人式の思い出



日曜日にスケジュール表を見ると「成人の日」と書いてあった。
そうだった、明日は祝日だったんだ、いいね、と思った。
成人式はもしかしたら、この成人の日にあったのだろうか。

大学2年生の冬。
手話サークルというよく分からないサークルに所属していたころの自分は、自分は合っていないサイズのスーツを着て、玄関を出た。

成人式の場所は知らない。
成人式で何をするのかも知らない。
実のところ、「僕はいろいろなことをちゃんと知ってますよ、大丈夫ですよ。」みたいな顔をしているけれど
俺は世の中の事を何も知らない。
今も昔も、たぶんそれ変わっていないのだと思う。

俺は、小学校の頃の同級生、山さんと谷さん(2人とももちろん男だ)と合流した。
山さんは高校から北海道に一人で行くくらい自立した男だったが、すっかり年を取って帰ってきていた。
眼鏡をかけた、少し背の低い男だった。
谷さんは逆に細長く、小学校1年生のときは一番背が高かった。
彼は頭脳こそ優秀ではないけれど、基本的には他人を少しいじるのが好きな優男だった。
彼らが頼りである。

「さあ、行こうか」

俺は彼らに告げた。
俺が「さあ、行こうか」と言ったときは、たいてい、どこにいくか俺自身も知らないことが多い。
行こうか、と言わないと彼らが行動しないから、俺がついていけないのだ。
だから言うのだ、行こうか、行こうよ、ついていくからさ。

3人で歩いていると、見知ったいくつかの顔と合流した。
彼らも小学校の頃の同級生である。
また、ソフトテニス部の頃の同級生でもあった。
とはいえ、ソフトテニス部は1年生の冬に辞めてしまったが。

中には、部活も関係ない藤君がいた。
藤君は、小学校の頃、かっこよかった。
それは顔のことももちろんだけれど、やっぱり性格が格好いいと思っていた。
当時、自分と仲の良かった竹さん(珍しく女性だ)が好きだったらしく
男らしく「宣戦布告」をしてきたのも藤君だった。
よく血を出して気持ち悪がられていた俺に対しても休むように促してくれていた。

小学校を卒業後、藤君とはあまり交流がなかったが
大学電車通学しているとき、電車からはじき出された俺を見て
「もしかしたら…」と声かけてくれたのも藤君であった。

俺と藤君は、いくつかの言葉を交わしながら大学へと向かった。
途中で藤君は、友達の女の子と合流した。
俺は恥ずかしくてしゃべれなくなった(なぜだ?)。
だんだんと会話からはじき出される俺を、藤君が、何か虐げるような目で見た。
その後、女の子は単身授業に向かったのだけれど、藤君と俺の会話が先ほどのように弾むことはなかった。

…という思い出が想起されて、俺は一瞬硬直した。
俺と藤君は、成人式の会場まで話さなかった。

成人式の会場である。
もう会場では人があふれていた。
振袖と、少し厚めの化粧をした女性たちが話していた。

そこには本君がいた。
本君も同じくソフトテニス部だったけれど、それ以上に大学に入ってからサークルのつながりで再会し
今や一番つながりがあると言っても過言ではなかった。

成人式はどうやら受付があるらしく、俺は山さんと谷さんと一緒に受付をした。
ドライヤーをもらった。
なぜ、ドライヤーなのかは分からない。
俺はのちにこのドライヤーを一人暮らしのために持っていった。
全然乾かなかったので、すぐに捨てた。

成人式会場は、ホールのようになっており、意外に空いていた。
なぜだろうか、もしかしたら、たいていの人は外で話しており
この式典自体には興味がないのかもしれない。
本君と俺は国歌斉唱の際、手話通訳の方が、指文字でそられを表現するのを
「興味深い」などと言って、それを見ていた。

やたらと本君が手話で話しかけてくれていたが
周りは手話などしない人たちなので、ほどほどの手話で返した。

式典は動画と、あいさつがいくつかあるだけだった。
内容は一切覚えていないし、特に有名人が何かをするなどもなかった。
何の意味があるのかはよく分からない。

外に出た。
さっきよりも一層、にぎわっているのである。

「久しぶり~!」「元気~?」
「お前、あれやん」「うえ~い」

無関係な人間にとっては喧噪とも言ってもいいかもしれない、それ。
山さんや谷さんは、同級生たちと話す、とってどこかに行ってしまう。
俺は脇にあるブロック塀にのぼった
(あれはブロック塀とは言わないかもしれない
 それは駐車場で車を止めるあの石くらいのサイズだった)

俺は成人式会場をしばらく眺めた。
谷さんと山さんが知った顔と話しているのを見かけたので、そこにすまし顔で歩いて行った。
西君がいた。
西君は小中学時代を通して休み時間に話したり、叩き合ったりした仲である。
しばらく輪の中に、入って…入って…、なかなか入れなかった。

「あの…さっきからお前が誰か分からんのやが?」

西君が俺に言った。
俺の中にニョロ~ンとした泥が一つ、落とされた気がした。

また、しばらく成人式会場俯瞰モードに入っていた俺に
一人の男性が話しかけてきた。
男性ホルモンの影響を受けて少し変容しているが
この童顔は、林君だと分かった。

林君はいわゆる2世宗教で、クラスメイトの中では一風変わった雰囲気の生徒だった。
林君は「俺もいろいろあった、お前もそうやろ」的なことを俺に話した。
連絡先を聞かれたが、俺は連絡先の交換を拒否した。
別に宗教感があったからではないのだが、それはなんとなくだった。

その後も俺はのらくらしながら成人式会場をうろうろしていた。
なんだか、よく分からない集団が大勢で集合写真を撮影していた。
あれは何だろう、もしかしたら仲のいいクラスとかなのだろうか。

そういえば、成人式の後には、なんかつまりがあるとかないとかドラマで見たことがある。
しかし、それについては何の連絡もないので、きっとないのだろう。

俺は帰路に着いた。
途中、同じ中学のメンバーでサイゼリヤへ行った。

そこにはかつての生徒会長がいた。
彼はブログをやっているらしい。

「ブログやってるねん、見てや!」

彼は言った。
彼は言ったので、俺は今でも彼のブログをチェックしている。
自分でもなぜ、そんな言葉を愚直に守っているのかは分からない。
俺はもしかしたら、奴隷体質か何かなのだろうか。

その後、そのうちの一人の家に行って、Wiiをプレイした。
みんな変わっているようで、やっていることは昔と大差ないのだろう。

成人式…成人になるための儀式というほどには、特別なことはしなかった。
あの頃は満たされていたからか、何をやってもあんまり悲しくなかったし
何をやってもあんまりうれしくなかった。

ただ自分が何かになれそうだという感覚と
自分が何かをしないといけないという焦燥感に囚われていた。

そうして破滅することになるのだから、成人なんてあてにならない。
重要なのは、成人するまでにどれだけのものとかかわり
精神的な経験を積み上げられたなのだと思う。