白みかん

白みかんは、おいしいみかん。みかんを剥くのがうまいよ。

愛が欲しい

「野毛ちかみち」の写真

「愛が欲しいです」。

携帯端末の会話アプリに表示された言葉からは、それを打っている相手がどんな表情をしているかまでは教えてくれない。
愛が欲しい…、のは、結構難しいことなんだろうか。

この世の中、無償の愛は確かにあると知った。
だが、同時にそれがずっと続くものではないことも知った。

人間はドラマみたいに切り取られた瞬間のなかで永遠には生きられない。
作られた物語の人物たちは、きっと人間ではないのだろう。
アニメーションたちが人間ではないように。

壁ドンはセクハラです。
俺様キャラは環境型セクハラです。

愛が欲しいというその人は、俺の目からはみんなに愛されているように見えた。
キャリアも明るく、きっと実力も相当なものなのだろう。
…と俺の目から見えている彼女の姿が、どれほど実像と一致しているのかは分からなかった。
愛が欲しいというのなら、きっと愛が欲しいのだろう。
恋じゃなくて愛なんだ…と俺は思った。

納豆パックを捨てたゴミ箱が臭う。
脱ぎ散らかしたジャージがこちらを見ている。
壁紙は中途半端に剥がれ、ずいぶんとボロボロになったものだと部屋を見渡した。

人の心が見えない。
新型コロナウイルスなど関係なく、俺と俺の知人たちが住んでいる場所は物理的に離れている。
でも、物理的な距離以前に人間には精神的な距離がある。
こんな世界で偶然ばったり会っちゃったなどということはほとんどなく
大概はある程度心の距離が近づいたからこそ約束して、物理的な距離を埋めるのである。

愛が欲しいって…何だ?
愛って何だろう?思わることか?

ストーカーから向けられる一方的な気持ちは…愛か?
それが友人から向けられる一方的な気持ちになったら愛か?
恋人になったらそれは確実に愛か?

「愛はどこにあると思う?」。

昔、理科の教員だか、国語の教員だかが、教室で突然そんな話をした。
思えば授業というのは60分のプレゼンテーションみたいなものだ、彼らはすごい。
とにかくなぜだか真剣な顔をした彼が問いかけて、いくつかの積極的な生徒(特に女子生徒)が多かった)が手を挙げた。
しかし、教員が思う解答にはいたらなかった。
俺はなんとなく答えが分かっていた。

「愛は、人と人との間にあるんだよ」。

それは週刊少年ジャンプで絶賛連載中の漫画で出てきた例え話と同じだった。
結局、その教員が本当に週刊少年ジャンプで絶賛連載中の漫画から引用したのか
それとも、その教員が人生を歩んできた中で見出した教訓なのかは分からなかったけれど
それもまた見出された愛の形であることは間違いなかった。

だとしたら、この一人の部屋の中でキーボードをひたすらにたたいている俺に
愛は手に入れられないのだろうか。

「それは世界の…愛?」。