携帯型空気入れで自転車のタイヤに空気を入れてみた。
一人暮らしを初めて自転車を購入したのも今は昔。
目の前の自転車は吹きさらされた影響からか、全体が茶色くさびてしまっていた。
全く同じ形をした自転車が2つとなりにおいてある。
恐らくこの自転車の持ち主も、自分と同様に近くのスーパーの1回にある自転車ショップで購入したのだろう。
だが、その自転車は自分のものとは違って、さびていなかった。
何か、特殊な加工でも施されているのか、それとも雨に対して何かしているのだろうか。それとも…。
とにかく、携帯型空気入れを30回も使用するとタイヤにもやや弾力が戻ってきた。俺はぼろぼろのリュックを背負いながら、自転車をこぎ始めた。
交差点でたくさんの人が信号を待っていた。何かあったのだろうか、警察官の姿や、救急車の音が聞こえていた。だが、俺の関心はそんなところには向かなかった。
俺の目はむしろ、目の前の工事現場に吸い付けられていた。自分でも、なぜこの工事現場を見ているのか、一瞬理解できなかった。
コロナでマスクをしながら肉体労働なんて、非常に体力を使うんだろうな、などと一瞬考えたのだけれど、実際は別の理由だ。
そう、目の前のお店は、この前まではちょっと高級な料理店だった。俺も何度か、いや、正確に覚えている、2度、利用したことがある。
コロナ自粛が始まったときも俺はこうして、ボロボロのリュックを背負って週に1度のルーティンである買い物に行っていた。
その時に店員が店先でテイクアウト販売の呼びかけを行っていたのだ。
ニュースで取り上げられているような、コロナの状況でも売り上げを確保するための施策だったのだろう。
そして、そのお店が、今、解体されている。
売上的にも限界になったのだろう。
一つ、また一つとして、潰されていく。