海の日を迎えた7月の三連休。
半ばの日曜日だった。
微妙に晴れた空から覗く太陽を俺はベランダから覗き返していた。
どうも、梅雨が早く開けた影響か、雨模様の移り変わり具合が読めない。
雨が降るかもしれないし、降らないかもしれない。
だが、あまり考慮してもしかたないこと。
時刻は昼前である。
平日に作った棚の下のところがやけに気になっていた。
ここに縦長の雑誌を置けばおしゃれだろうなと思う。
美容室なんかに出てくる本はどうだろう。
あれを普通に買う人の神経が俺には分からないのだが
分からないからこそ自分は体験する価値がある。
人に危害を加えないことならば、やる価値が、そこにある。
本を買いに行こうと思った。
だが、それだけでは腰が重い。
もう一つ、何か予定があるとよい。
そうして俺は人が少ないといわれる後輩のイベントに
行くことにした。
神戸の街は何も変わらない様相で晴れ間の中に存在していた。
この往来を何度、この足が踏みつけたことだろうか。
妙な色のタオルを巻いて参加者を誘導したこともあったし
大きなホワイトボードを持って、同年代の男女と歩いたこともあった。
その頃の思い出が頭の中をめぐっては…行かなかった。
イヤホンで聞いているニュース番組にやけに耳を持っていかれて
本来遠いはずの道のりが意外と近いように思えた。
これが相対性というやつなのだろうか。
それとも違うのだろうか。
後輩のイベントは確かに人が少なかった。
俺はまあ、OBらしく、当時のようにふるまった。
人に話しかけて、人と人が話せるように誘導したりなどした。
本来自分がどういうことをするキャラクターなのかは分からない。
それでも「人と話したい」という思いが、そうさせているのだろうか。
そこで一人の女性と再会した。
彼女はその名を「食い倒れ」という。
「久しぶり!食い倒れだよ☆」
27歳の彼女は当時と変わらぬ
いや、当時よりも少し明るめにそう言うのだった。
ああ…。
食い倒れと俺が話していたのは今から7年前のことである。
当時、やる気に満ちた同期生が跋扈する中
俺は彼女と同じイベントを運営していた。
食い倒れを一人の仲間ととらえた当時の俺は
それはもう、彼女のことも大切な存在として扱った。
寿司を食い、ラーメンを食い、あとは…何をしたかあんまり覚えていないが
とにかくそれなりに、会話をしていたのだろう。
いつからか…。
そう、彼女自身がそのポジションを選ぶように
活躍し始めたころから俺は道を違ったように思い交流を断っていた。
別に意識的に断ったわけではないけれど
まあそれならそれで構わないだろうという思いだった。
食い倒れとしゃぶしゃぶを食べた。
しゃぶしゃぶは少々すっぱくて
あんまりおいしいとは言いづらかったのだが
まあ話す機会があるというのは悪くないことである。
そんな中で彼女は言った。
「人間になったな~」
人間になった。
人らしくなった。
という評価。
彼女に会ったのは最低でも6年ぶりである。
人間になったという評価は正直嬉しい。
俺は昔から今に至るまで、人な今まで外れている、もとい人並み以下である。
ずっと、ずっと昔から人並み以下の俺が
どうにかしてその精神性だけでもマトモでいたい願っている。
身体も正直思うように動かない自分だったが
「変わった」と言われることは悪くないことだった。
特にドラマチックなこともなく
ドラマチックな思い出はない。
食い倒れと俺は
この先、また話すことになるのだろうか?
ならないのだろうか?
俺はとても、とても怖かった。
明日が来るのが怖かった。
何もしたくない、何も考えたくない。
優しい人が好き、優しい世間が好き。
書店で購入した似たような本2冊を眺めて
やっぱり1つは写真集にすべきだったなと
後悔した。