白みかん

白みかんは、おいしいみかん。みかんを剥くのがうまいよ。

SOS

 

さかのぼること、8年前。
当時俺は大学生だった。
もう、本当に大学生真っ盛りだった。

今でも俺の脳内は一番強い刺激を受けた大学生の頃の思い出が
スパークしているのだけれど
なんだか俺は最近、ある人のことを思い出している。

その人はおばちゃんだった。
もう何の変哲もないおばちゃんで
顔も普通で体系は少し太っていたかもしれない。
俺の母親よりは少し年下くらいだろうか。

そのおばちゃんと向かい合わせになった時
おばちゃんは何気ない顔で何げない言葉をかけてくれた。
当時の俺にとってはまともに会話してくれる人たちこそ正義であり
そのおばちゃんも、その意味では正義だった。

どうも、何か察するに…
俺がそれをどのように察したのかは覚えていないのだが
おばちゃんは周囲の人からストレスを受けていたらしい。

どういうコミュニティで
どういうストレスを受けていたのかは、分からない。
だが、彼女に子供も夫もおらず、孤軍奮闘していたことは確からしかった。

彼女は優しそうな人相をしていた。
人間は優しそうな人を「弱そうな人」と判断することもある。
優しくなれば生きていく資格はない、なれど
強くなれば、生きていけない。

彼女が死んだことを知ったのは
梅田にある小さな喫茶店でこれまた知らないおじさんと話しているときだった。

Facebookで最後に彼女は精一杯のおしゃれと笑顔で
アイコンを飾っていた。
更新が途絶え亡くなったことを知ったのはすぐあとだった。

あの人は何に殺されたのだろう。

その喫茶店で他愛もないウワサ話のようにおじさんが語る風景に
俺は何も感じることができなかった。
自殺だったらしいとだけ俺は聞いたけれど
具体的に何があったのかは分からなかった。

彼女のことを思い出すのは
あの最後に更新されたアイコンとともにである。

メガネを外して、おそらくは化粧して撮影したであろう
輝かしい一枚。
その一枚が輝いているように見えたからこそ…
その直後に彼女が亡くなったことに俺は…
なんだか妙な気持ちになる。

暗い人がそれでも頑張ろうと無理をしたとき
線香花火が消える寸前のように
ろうそくが消える寸前のように
ぱっと光るのかもしれない。

そうして彼女は亡くなったのかもしれないと。

ああ…。

SOSを彼女はきっと発してたんだろうと思う。
俺は何も思わなかった。
彼女の周りにもそれを受け取れる人はいなかったんだろう。
だから、彼女は亡くなったのだ。

俺は最近LINEのアイコンを何を考えたのか
真正面に自分を捉えた画像に変更した。

どうも、この行動が彼女の最期の行動に近しく思えてならなかった。
線香花火が消える寸前のように
ろうそくが消える寸前のように。