白みかん

白みかんは、おいしいみかん。みかんを剥くのがうまいよ。

セミナー勧誘されるの巻


「天井に吊るされたカラフルな紙」の写真

渋谷を走る。
また今日も少しだけ残業してしまった。
今日は5分だか10分くらいだけれど残業しない男としてはもうこれは走りたくなってしまう。
まあ、走ったとしても最近は電車の乗り換えの都合で10分くらいはただ立っている時間なんかもあるのだが。

土曜日の渋谷の人の多さには驚いた。
緊急事態宣言があけた、イコール、新型コロナウイルスの自粛が終わったみたいな
そんな感じでむしろお祭りムードが出ているような気がした。
別にそれを批判する気もないのだが、営業時間の短縮要請が8時から9時になっただけで
そこまで人の数が増えていいのものなのだろうか。

そんな不満らしい不満を持ちながら歩いている俺を後ろからたたく者がいた。
一瞬、去年、似たようなことがあったのを思い出した。
その時、俺を捕まえた人の顔と名前を、俺は一致させることができなかったのだけれど
土曜日の夜の街で、俺の肩をたたいた人物は、やはり知らない顔だった。

「すいません、渋谷詳しいですか?
 私たち、居酒屋を探していて…」

イヤホンを外した。落とした。

居酒屋?
街で声をかけられるのは初めての体験だった。

そこにいたのはOLらしい風貌の女生とスーツ姿の男性であった。
背格好は俺と同じくらいであまり圧迫される感じはなかったので
俺はしばらくその会話に付き合うことにした。

おすすめの居酒屋の名前を出してみるのだが、話題が移り変わって年齢やら仕事の話になってくる。
おすすめの居酒屋教えたんだから予約しなよ、とは言い出しづらく
結局、話が盛り上がった風になってLINE交換をしてその会話を終えた。

LINE交換、という行為を久しぶりにした。

少し、街で声をかけられるという稀有な体験をした成果
俺は舞い上がっていたのだが、よく考えると、これは同期社員が前に話していたエピソードに酷似していた。

「街で居酒屋を聞かれて、一緒に飲みに行くことになった」

同じだった。
電車に乗り込んで俺はインターネットで検索した。
居酒屋…。

確かに居酒屋なんて街で人に聞くほうがどうかしているような気がした。
気になって同期社員にも連絡してみると、彼のところも結局はセミナー勧誘を受けたらしい。

ああ…そうなんだ…。
結局、俺は勧誘でもなければ話しかけられることもないやつなんだ…。

舞い上がった分、俺は電車の中で、少しうなだれた。
セミナーを、勧誘される、デビューである。

その帰りに雨に降られていた。
あの二人の空にも雨は降っているのだろうか。

孤独なるものを食い物にする存在があるのなら、その存在を許してはいけないと思う。
どうか、情報弱者に救いを。