白みかん

白みかんは、おいしいみかん。みかんを剥くのがうまいよ。

基本情報技術者試験に合格よ

 


「私は基本情報技術者試験に合格し…」。

その環境で生かせるものに取り入りたいという気持ち。
それを人は戦略と呼ぶのだろうか。

名目はIT企業である今の自分の会社に入ったとき、俺は宣言をしないといけなかった。
それはもう面倒くさくて、出まかせスピーチも決してうまくない自分が何かを語らないといけないというのは
あまりにもつらいことだった。

泣きだす、同期社員。

ええ…、君が先に泣いたら…俺が泣けないじゃないか…。

今の若者は夢も希望もない。
いやいや、金持ちになりたいという漠然とした希望なら持っているやつは多いけれど…。
昔はよかったなんて言うのは昔はまだ消費できる資源があったからなのかもしれないよ。
今の20代から見える空はとてつもなく狭い。

高層ビルに囲まれている空は、とてつもなく食い尽くされ
既得権益に生きるご老体たちと、我がファミリーを守らんとする者たちが富を得ている。
資源は世界的になくなっていき、食糧不足も遠い未来ではないようだ。

そうした諦念の中…俺は…。

「基本情報ぎじゅ…技術者…試験に合格し…」
と、狭いビルの一室で宣言していた。

基本情報技術者試験
IPAというなんかIT系の団体がやっている国家試験Ð寝ある。
ITパスポートとかいう超簡単な試験がレベル1で
基本情報技術者試験はレベル2にあたる。

ITパスポートがパスポートなら
基本情報技術者試験は空港から出ました~くらいなようだった。

IT系でもないのに俺はこの宣言に苦しめられ、この試験を勉強し始めていた。
食欲なき食事が毒であるように意欲なき勉学は身につかない。
その格言の通り、1年目の俺が勉強する基本情報技術者試験はまるで身につかなかった。
単語をノートに書き、中学生が英単語を覚えるみたいに俺は勉強したが
結局、試験会場では何書いているのかもよく分からないまま、一人で家に帰ることになった。

さて、その後の俺がどうなったかというと、やはり勉強は続いていた。
最早業務自体は研修を終えて本格的にスタートしていた。
業務には絶対に役に立たない試験範囲の問題たちは、俺のやる気をそいでいった。
傍らで業務に関係ある資格を取る。
それは簡単だった。
それなのにこの基本情報技術者とかいう資格は、なんて難しいんだろうか。

2年目の俺も試験に挑んだ。
今度はやや書いていることの内容は理解できた。
そして午後問題に挑もうとしたとき、俺の目の前には自動販売機があった。

「景気づけに、買ってみるのも、ありだな」

俺はドデカミンなんとかという飲料を買って飲んだ。
それが間違いだった。
試験中にお手洗いに行きたくなってしまったのだ。
それは試験中盤のことで、お手洗いには行けなかった。
しかたなく俺は、我慢の限界に達する前に試験会場を後にした。

落ちた。

それから1年の時が流れた。
人間関係も変化し、というよりも縮まっていき
最早資格を取ろうが取るまいが誰に影響するのだろうという気分だったが
仕事の終わりも近づき、1年目の自分がした宣言のことを思い出した。

自分の手の届く範囲の約束は絶対に守ろう
…と過去を反省し続けた末に心に決めていた俺は
もう一度、少しずつ勉強を始めた。

そして、今回、受かった。
どうも合格率が高かったようだけれど、これで自分に嘘はついていない。

これはいい話だ、きっといい話なのだろう。