白みかん

白みかんは、おいしいみかん。みかんを剥くのがうまいよ。

ディジタルスティグマ

はてなインターネット文学賞「わたしとインターネット」

 

もう後戻りはできんぞ、LANケーブル束の戻し方を忘れちまったからなの写真

スティグマとは
直訳で「汚名・烙印」というものを意味するらしい。
もともとは奴隷や家畜に押された焼き印に由来しており
キリストの十字架で受けた傷跡なども指すらしい。

しかしながら自分がこの単語を覚えていたのは
少年漫画などでなんか格好いい烙印が現れたときに
「これは…呪われたスティグマ…!」などと
格好よく言っていたからなので
ここではそんな深い意味はないけど
デジタルタトゥーより、もっと強い意味を込めた
デジタルスティグマだ!という意味で使うことにする。

「…そうか!」と読んでいる人にも思ってほしい。
あなたにも過去あったかもしれないし
これからあなたに起こるかもしれない…
いや、刻まれるかもしれないのだから
このスティグマは…。

俺がパソコンを手に入れたのは中学生になった時だった。
ある日、その後、酒を飲みすぎて命を落とすことになる祖父が言った。

「パソコン買いに行くぞ!」

俺はその強い勢いに押されて
言われるがままに車に乗り込み
数分後には電気屋の一階にいた。

祖父は店員を捕まえてこう言った。

「パソコン買いにきたぞ!」

先ほど俺に言った言葉をちょっと活用させただけで
ほとんど同じセリフを言っていた。
店員はその勢いに負けずパソコンを紹介し始めた。

「このパソコンなら動画も作れます!」

なぜ動画を作る話になったのかは全くわからなかった。
パソコンというものが俺にはピンと来ていなかったが
動画を作れると聞いた時、俺の頭の中には
車がカプセルの中を飛んでいるような近未来のイメージが走った。
その近未来のイメージがなんか古いのは
当時家にあった参考書が昭和感丸出しのものだったことが
影響しているだろうと思われた。

店員が推したその白いパソコンを購入することになった。

「インターネットは通っていますか?」

店員が尋ねた。

「そんなん知らん!」

祖父が答えた。
そこからインターネットを家に開通させるまで
激しい苦労や業者との架空料金請求など
さまざまな面倒があったが、紆余曲折の末に
俺の部屋(出ていった父親の部屋)にパソコンが現れた。
ノートパソコンではあるが圧倒的な存在感だった。

インターネット開通。
R18コンテンツというものを知らなかった俺は
当然そんなものにアクセスすることはなかったが
店員の「動画も作れます!」を聞いていたので
動画サイトへのアクセスを行った。

時代は2009年。

Windowsムービーメイカー。
いろいろとパソコン内を探索した結果
このムービーメイカーが
「動画も作れます!」の正体であったと俺は突き止めた。
そして、俺は試行錯誤の末、操作方法を習得し
手元にあったメモ帳に棒人間を書きそれをすべて撮影して
パソコン内に取り込んだ。

いくつかの動画をYoutubeにアップした。
主張したがりな人間だったのだろうか。
そこまではよかった。

俺が行ったミスは
掲示板という世界に触れてしまったことである。
まとめスレッドというものはあまり見当たらなかったが
俺は掲示板本体に書き込みを何度か行い
トリップという謎のルールを知らないこと自体に対して
ぼこぼこに叩かれたり
何かそのころ自分の中で流行っていたキャラクターに
なり切ってぼこぼこに叩かれたりした。

なんとなく格好いいセリフを言っている
キャスフィ掲示板の人間を攻撃して
逆にぼこぼこに叩かれてアクセス禁止処分を受けた。

SS投稿掲示板なるものに文章を投稿して
アカウントが乗っ取られた末
悔しいのでアカウントを乗っ取った人のふりをして
書き込んで敗走するということもした。

ウチにウチへ。
インターネットの表層辺りの
ごみごみした世界へ漂っている生活が続いた。

FC2ブログを作って
コンテンツをよそからパクってきて
叩かれてしまうということもあった。

思い返せばどこへ行ってもたたかれている気がしてきた。
叩かれているというだけで
別に俺の発したものが足かせとなっているみたいなことは特にない。
そういう意味では世間一般のデジタルタトゥーは俺にはないのだが
記憶の中にはずっと、そのころのインターネットで漂う自分が
焼き付いているのだ。

Youtubeにかつて上げた動画の中には
時を経て○○万回再生を記録しているものもあった。
時は資産だという。
そういう意味でいえば積み立てなんたらも
案外馬鹿にできないものだなあと思ったのだった。

君にもあるだろうか。
普段は人からも見えない
自分からも見えないけれど
そでをめくれば、デジタルスティグマ

俺の片腕が、うずく。