白みかん

白みかんは、おいしいみかん。みかんを剥くのがうまいよ。

鬼になるな!白みかん!

今週のお題「鬼」

 

 

「見れば分かる、お前意識低い系だな?」

1か月ほど転職者の道を経験して
ハローワークの若者向け受付のおばちゃんに怒られて
その末に俺は焼き肉屋で内定の連絡を勝ち取った。

そうして新しい会社に入ったのが去年の9月である。
あの夏から季節は一つ隣へ移り、冬になっていた。
この土地では雪が降ることもない。
ベランダからは動物園が見えており、おお緑緑と木が茂っている。
木々の向こうには開発された証であるところの高いビルが見えた。

新しい会社はいわゆる意識高い系だった。

俺にとっては意識高い系はいつからか壮絶なる敵としてインプットされてきた。
それはまるで鬼そのもの。

俺が初めて鬼と遭遇したのは坂の上にある学園に入学した年だった。
齢十八にして俺は学園の門を開き、勉学にいそしんでいた。
その時、LA(ラーニングアシスタント)という異常者たちが俺の前に現れた。

学習を支援するというよく分からない称号を持った彼らは鬼だった。
学習を怠る者を責め、嘲笑した、冷笑した。

彼らの鞭撻はまるで現代におけるYouTuberのごとく
よく回り、留学に行き、バックワーカを楽しみ、呼吸をするかの如くワークショップを開催していた。

「○○とはなんぞや、と申しますと…」

横文字を連発したかと思うとお前はどこの地方の出身なのだと言いたくなる
「なんぞや」を使って説明を始めた。
鬼だ!

しかし、当時の俺に鬼に勝つ実力などなかった。
なぜならば俺は意識低い系だったからだ。

「見れば分かる、お前意識低い系だな?」
「…」

はるか昔の記憶がよみがえる。
意思を持たずに生きていたころ
ボクシングを習って周りの生徒を暴行を働いていた男がいた。
彼は俺の目を見て、俺のことが分かると言った。

「お前の目は腐っている」
「…」

どういうリアクションを返しても殴られそうだったので
俺は結局、その男に対して何か言葉を返すことはなかった。

意思がない、というのはこの現代において決して珍しくはないのだと思っている。

俺が大学以後に出会った人間たちは、そのほとんどが魅力的な人格の持ち主で
彼らには夢があり、目標があり、大切にしている物があった。
彼らがどういうプロセスを経て、そこに至ったのか、というのはまだ俺があずかり知らぬところなのだが
とにかく彼らの中には意思があったのだ。

だが、そこにいくと俺には意思がなかった。
漠然と時間の流れの中に自分がおり、幼稚園の次には小学校が、小学校の次には中学校があると知っていた。
では、それに対して俺がやるべきなのはテストの点数を取ることだということも知っていた。
テストの点数はすぐに取れなくなった。
取り方が分かっていないからだ。
俺はすぐに塾に入れらた。

時折、意思のない俺でも不安になった。
当時、意思のない俺はその不安の正体にも気づかなかった。

鬼は、そんな不安を一切感じさせない力でワークショップを続けていた。
俺は心の底から鬼たちのことを憎んだ。
この感情は嫉妬でもなく、敵対心でもなく、生理的嫌悪感だったのだ。

そうして俺は俺のまま、意識高い系を倒すことを決めた。

意識高い系の総本山のような場所まで俺はたどり着いていた。
横文字が並ぶ会話、略称された2~3文字のアルファベット。
俺はここで…。
俺は…何がしたかったんだっけ?

鬼になるな!白みかん!

過去の自分が叫んだ。
だが、この日本、結局、最初から意識高くあった人間たちには敵わない。
収入も、容姿も、あらゆるステータスが鬼のもの。
俺にあらがうアイデアも力もない。
今も昔も…。