白みかん

白みかんは、おいしいみかん。みかんを剥くのがうまいよ。

ただ一言だけ

 

久しぶりに頭に残る夢を見た。

一つ目は恋愛的な夢だった。
こちらは忘れてしまったがこれも嫌な夢だった。

夢を見た自分が嫌な寝覚めをしたころ
カーテンで日の光を遮らなくても、時刻はまだ早朝であることが分かり切っていた。
再び眠気の波、酩酊するような感覚に襲われて俺は意識を持っていかれた。

人といるのは楽しい。
本来学生時代というのはきっとこういうことをして過ごせばいいのだと思う。
ゲームばかりしていたころもあったが、いつからかゲームよりも人と話すことが楽しいと思った。

夢の中では男女がそろっていた。
きっと自分の意識の内側にいる人たちなのだろう。
俺はリラックスしていた。
俺は輪の中には積極的に入らず一歩引いた眼でそれを見ていた。
時折、惹かれるようにして会話に混ざる。

しかしふとした瞬間に何かが気に入らなかったのか
俺はふさぎ込んでしまった。
誰かが構ってくれるだろう…。

待っているうちに辺りは暗く黒く染まっていっていた。
もう周りには誰もいなくなっていた。
みんな、俺に声もかけずに行ってしまったのだ。
そうだね…面倒くさいよね…。

太陽の塔が近くに見えた。
石で造られた机の冷たい感覚が嫌に染みてきて俺はその場を発とうとした。
だが、辺りは象徴的な太陽の塔以外何も見えない。
どこから自分が来て、自分が帰るのか。
ずっと分からないのだった。

そうして目覚めた朝は、いつも通りの朝だった。
一人暮らしを始めてからは3年ほど経過している。
俺には特に一人暮らしがさみしいとかそういう感情はなかった。
ずいぶん前から母親とはロクな会話がない。
家族の愛や団らんというものがなかったからわりに、俺は比較的抵抗なく一人暮らしを始めることができた。
その代わり、それを埋めるように俺は俺の感情を周りの人間関係に求めていたのかもしれなかった。

久しぶりに夢を見たおかげで俺は、少しだけ人間関係について考えた。
一方的な思いを続けるのは疲れる。
そうなのか…。

なんやかんや、俺は珍しく外出していた。
別に誰と遊んでいたわけでもないので、ため息をつきながら家に帰ってきた。
イマイチな日だったと。

そうして風呂から上がって、LINEがきたのに気づいた。
後輩だった。
どうやら試験に合格したという旨の連絡だったようだ。
恐らく以前に試験に関する会話をしたからだろう。
真面目な人だった。

ついでに俺は後輩に相談を持ち掛けることにした。
「相談」というのは結論を出すためのミーティングではない。
自分が満足できればそれでいいのだ…。
というのが大学生のころに得た教訓で同時に
「相談」とやらを俺がするのは恐らく8年ぶりだった。
誰にも何も話さない時期がかなり続いていたらしい。

それは「一方的に誘いの連絡をしているが、今後もし続けるべきか」ということだった。
俺は昔の友人…といっていいのか分からないが、Zに対して誘いの連絡をずっと行ってきた。
Zは自分からは連絡しないと公言していた。
理由は知らない。

俺はZのことが嫌いではなかった。
俺が死んでもZがみんなとつながってくれているといいなと思い、そういった仲介役をしていた気がする。
仲介役という表現はあんまり正しくはないのかもしれない。
とにかく、誘いに誘ったし、俺からも時折連絡をし続けていた。

…だが、よくよく考えると俺からアクションをし続けているだけで
集団行動を卒業した今、Zから何かを持ちかけてくることはなくなった。
昔はいろいろと協力したものだが、今やこんなものかと
急に今まで心を燃やしていた燃料が切れたようになってしまったのだ。
今日見た夢がそのトリガになっただけなのかもしれないが。

俺は久しぶりにやや長文を人間に対して送信した。
律儀な後輩はそれに返信してくれた。
俺は満足した。

そうして俺は連絡することを辞める、と結論付けた。
だが、一方で俺は思う。
きっと俺は一言でも「また誘ってほしい」「誘ってくれてありがとう」と言ってくれれば
またZのために全力を尽くすのだろう。

ねぎらいを求める小さな器だった。
俺は何物も求めない機械のようになれたらよいと思った。
だが、見返りが欲しかった。

「自分のことを犠牲にしてでも尽くしてくれた人」を
圧倒的に信頼してしまうのもこの性質が裏返った結果かもしれなかった。