新型コロナウイルスは、オワコン。
もういい。
もういい、君たちは飽きられているのだ。
世界中を席巻してリモートワークとかクラウドとか
そういうものを加速しただけで
結局のところ君たちは一過性のお笑い芸人のごとく
昇華される流行の一つでしかなかったのだ…
のような願いを込めながら
新型コロナウイルスの終わりをひそかに願う一方で
俺は久しぶりに食事会に参加していた。
食事会は2つあった。
意識高い食事会、意識低い食事会。
もともと俺は意識低い側の人間である。
自意識が覚醒しないまま10数年生きていた俺にとって
意識低いのは当たり前のことだったが
何か分からないうちに意識高い世界に足を踏み入れることになって
そこにいる人間たちのなんだか寒気のするような
言動に触れてから俺は意識高い人間たちと戦える力を身につけたいと思うようになった。
意識低いまま、意識高い奴らに勝ちたい…と。
そうこうしているうちに、意識高い系の会社に入ることになっていた。
今後、その会社に所属することがどこまで続くのかは分からないが
ひとまず今は目の前のことに全力集中である。
本日は意識高い食事会に参加した時のことをお伝えしよう。
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「集まりましょう!」
社内チャットにそのメッセージが投稿されたのは
1か月前のことだった。
新型コロナウイルスによって続いていた
緊急事態宣言が緩和されていき人間の往来が増え始めていた時期だった。
会社の人たちとはまだ会ったことがなく
基本的にはオンラインでのやり取りが続いていたが
関西所属の人間たちだけでも集まって話をしましょうということだった。
いや、そんな初対面の人間だけで集まろうなんて…
というところから意識の高さは表れている気がする。
意識の高い人たちは物おじしない、コミュニケーションにためらいがないのだ。
俺は参加した、「いいね!」。
あっという間に10月が過ぎていき、当日。
大阪梅田の人の流れは新型コロナウイルスなどもはや関係なく
人々の口元にマスクが張り付いているだけで
学生時代に見た風景と何ら変わりのないもののように見えた。
「白Tに黒いジャケットですか?」
リモート越しに顔を見ているとはいえ
ほとんど初対面勝つマスクをしているとなると
誰が誰やらよく分からない。
俺は積極的に文章と投稿し集まろうとした。
そして集まった、男性4人、女性2人。
この男女比である。
意識が高い。
意識が高い公正とは男女比が偏った構成になっていないことである。
「意識低い編」もいつか書きたいと考えているが
意識低い編はもちろん男女5:0で構成されていた。
自己紹介も特になく
「いつもウェーイしちゃってごめんね、、、
でもありがとう!」
という会話が各地で展開されていた。
意識が高い。
日頃の感謝も忘れずかつ
そこに固すぎないように日頃のおとぼけたエピソードを
想起させる要素を忘れていないのだ。
「生でしょ」。
「え~う~ん…じゃあ生で」。
生…が生ビールを指すことは知っていたが
生ビールなど飲んでもおいしいと感じたことがなかった。
なんとなく空気に負けて俺は生ビールを注文した。
「商社のころはボーナスの基礎が80万越えだった
給料は200万近く下がった」
今までのキャリアの話が始まった。
彼の年齢は俺と同じだったが今までの活躍は段違いだった。
今の会社の同期はただ意識高いだけではない
その意識の高さに裏打ちされたような輝く経歴を持つものが多いのだ。
聞けば社長と社長の奥さんを口説くような昭和か・平成かという
営業活動を行っており、その中でも結果を出している彼は
会社の経費でさまざまな活動を行い20代半ばで700万円近くの
年収を稼いでいたという。
「それでも自分の中に足りないのはITの力だと思った
Googleかゴールドマンサックスに入りたい」
彼は自分の目標を語っていた。
意識が高い。
常に自分の目標を持っているというのはすばらしいことである。
どこに向かっているのか分からない、あるいはなんとなく目標を持っていても
「今は準備している」などという空虚な妄想に取りつかれているのが
意識低い系の特徴である。
それがどんなに大きな目標だったとしても
キャリア的にそれが嘘ではないというのが分かってしまう
それが意識高い人たちのオーラというものだ。
「おしぼりを配るよ」。
俺にできることと言えばおしぼりを配ることくらいだった。
俺はふと周りを見た。
男たちの服…アクセサリーがついている。
そして指輪をしている。
意識が高い。
俺のような意識低い系はアクセサリーをつけるという発想がない。
なぜなら…発想がないからである。
そしてみんな顔が格好いい。
なぜだろう。
なぜ意識が高いと顔が格好いい感じになるのだろうか。
「NTTは福利厚生がすごい」
「東芝は…」
みな有名企業の出らしく
企業の内情を話せる範囲で話してくれていた。
「おしぼりを配るよ」
「おしぼりを配るよ」
もはやおしぼりを配るマシーンと化していた俺に
望みはなかった。
俺は唯一、みんなと同じトレーニングを受けていない人間だったため
日常の話題にもついていけていなかった。
「NFトレーニングがさ…」
「ああ、NFトレーニングっていうのがあって…」
意識が高い。
俺という話題についていけていない人間の存在を感じ
キャッチアップを忘れていない
なんていう意識の高さだ、見習いたいものだ。
お酒を、間を埋めるために、飲んじゃう。
頭が痛い。
久しぶりに飲んだアルコールは
気分を上げることなく
頭の痛さを俺に残していった。
「今日はありがとう!」
拳を突き合せた。
え、なにこのあいさつ…したことない。
政治家がコロナでひじを突き合わせているのは見たことがあるが
拳を突き合わせる少年漫画の主人公みたいなあいさつは
今まで見たことがなかった。
男女が拳を突き合せた。
俺は頭が痛いので、帰った。
しかし、帰ること自体、非常に大変だった。
俺にしてはお酒を入れすぎてしまったのかもしれない。
気持ち悪い。
それでも必死になって歯を磨き顔を洗った。
明日は休みだが、自分の体を大切に。
これで俺も意識高いに近づけるかなあ。
…そうして思った。
俺は意識低いまま、意識高いのに勝ちたかったのに
いつの間にやら意識高いものに近づいてはいないだろうか。
ああ…。
ならば、意識低いものに再び触れよう。
取り戻すんだ、過去の自分の要素を。