2024年8月31日。
少年時代であれば夏休みの終わりになるのだろうか。
もう夏休みの期限が五日いつだったのかも思い出せない。
別に俺は夏休みをそれほど楽しみに思っていた記憶がない。
特に長期休みがあったとしても遠出したいという欲がないからである。
遠出は昔から好きではないのかもしれない。
というよりもみんながあんなに遠出をしたがる理由がよく分からない。
ただ疲れるだけだ。
…という感覚を得るたびに
自分はなんてつまらない人間なんだろうか、という思いが相反して浮かんでくるようになった。
インプットに対して反応する感覚器官が欠損でもしているような気がする。
ということで2024年8月31日の空はとても曇っていた。
台風が来るらしかった。
東京で開かれていたであろういくつかのイベントが中止になっていたと聞いた。
台風で直接的な被害を浴びたことはないので、俺はなにも気にしていなかった。
そもそも家から出る予定もない。
そんなことを考えているとどこかの偉い人が「台風で気分が高揚する」と発言して謝罪していた。
謝罪に至るプロセスは理解できるがなんだかくだらないニュースだなと思いながら起きた。
起きて朝ご飯を食べているとなんだか眠くなってしまい、俺は寝た。
寝て起きて12時になっていることを確認した。
昨日のやりきれない思いが若干お腹の右下当たりに残っている気がした。
8月30日金曜日。
業務が長続きしすぎて俺のやる気もたいがい減衰してきたころだった。
その日は以前のイベントでやったトークセッションが人気だったということでリピート依頼をいただいていた。
好評だったのでリピートということだったが前回は現地開催、今回はリモート開催だ。
状況がかなり違う。
俺はいくつかの練習を終えたあと、ビデオをオンにして
自分でスライドを操作して発表を終えた。
ビデオをオンにしていたと思うが、自分の画面では何をしているのかどう映っているかが確認できず
マイクがオフになった灰色の黙したタイル群が目の前に並べられていて
俺は手ごたえもなく17分話し続けた。
発表を開始した直後、ストップウォッチを起動させるのを忘れており
スマホはロックがかかっているため、もう後戻りはできなかったのだ。
ああ…。
手ごたえのない発表が終わった後、質問のコーナーがあった。
前回はこのコーナーが盛り上がったというのが人気の理由だったのだが
今回は全く反応がなかった。
リモートだったからなのか、俺の話が詰まらなかったからなのか
どっちかは分からない。
まあ、どっちでもいいか…。
「負けた。」
パソコンの電源を落として静かな部屋で一言つぶやいた。
俺は猛烈に負けた、と感じた。
こんな業務量や知識量に関係ないセッションで特に爪痕も残せないのであれば
たかが知れているというもの。
ファーストペンギンはいない。
みんな白熊に食われてしまった。
南極に行こう。
そしてペンギンを、見つけに行こう。
金曜日の夜に勝手に更新されていく自分の動画を眺めて
低空飛行を続けるすべての自分を憂うしかなかった。
きっと2学期になっても何も変わらないのではないか。