白みかん

白みかんは、おいしいみかん。みかんを剥くのがうまいよ。

さらば東京旅

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思ったよりもインターフォンの鳴る時間は早かった。
その日役所に転出届をもらいに行った俺は役所の不思議な空間で
パイプ椅子がほんのちょっとだけ進化しましたよというような趣の椅子に座っていた。

役所というのは不思議な空間だった。
何というかキャラクターたちが。
平日の真昼という空間だからか、それともそんなことは関係なかったのか
なすびの被り物をした男がそこにはいた。
なすびの被り物をした男を見て、これは地域のキャラクターかなにかだと俺は最初思った猪田が
よくよく見ているとそのなすびも整理券をもらって椅子に座っていた。

後ろの女性に形態で写真を撮られるなすび。
なすびの腕を見ると立派な毛が生えており、肌はやや茶色で日に焼けていた。
要するにおじさんがなすびの被り物をしていた。
写真で取られて恐らく友達のLINEとかに添付されるのだろうなあと思うと少し切なくなった。

またしばらくして、今度は布面積がやたらと小さい女性が歩いていた。
へそ出しスタイルである。
へそ出しスタイルはいいのだが思い切りおなかも出ていた。
おなかが出ているのに、なぜへそ出しスタイルを選んだのだろうか。
女性はカツカツと向こうに歩いて行った。
確かにファッションを選ぶ自由は各個人にある。
だとすればそれがいわゆる正統派なスタイルとして成り立っていなくとも
それを選びきった個人を評価しているのだろうか。
俺は、心から称賛を送った。

同じ年くらいの女性が俺を対応してくれた。
どうやら現在はマイナンバーカードで転出届を出すことができるらしい。
俺はよく分からないが、データでの転送を希望した。

かえって来て早々、引っ越し業者がきた。
インターフォンの鳴る時間が早い。
まだ約束の時間よりも早い。
だから俺は冷蔵庫の電源も落としていなかった。

慌てて中のものを急いで出していると
いつか使うかなと思っていた春巻きの皮たちが部屋の角にぶつかって粉々に砕け散った。
引っ越し業者、ドアまで来る。
あああ。

引っ越し業者の対応が終わった。
思ったより荷物が多かったことに俺は反省し
第2の一人暮らしをする際は、決して荷物を多くせずに
ミニマリストとして生きていきたいと、そう強く思うのだった。

そして立ち合いの係の人が来た。
8万円請求された。
消費税もバカ高い。

立ち合いというのは最後に鍵を返してしまうので
係の人よりも俺は先に出ないといけないらしい。
そんなことを初めて知った。
だとしたら立ち合い=部屋を出る日だよな。
契約は31日までなのだが…。
立ち合いが契約終了日でいいのではないか?

この辺は一体どうなっているんだろうか…。

その場で今すぐに出ないといけないことを知った俺は
その場にある荷物を思い切りかき集めて、鞄にぶち込みマンションを出た。
あわただしい3年間の終わりだった。

微妙な雰囲気の夕日が出ていた。
この街に来ることはもうたぶんないだろう。
よく分からない街だった。

そうして俺は東京生活を終えた。
世は新型コロナウイルス時代。
わりと、思い切り、くだらない時代かもしれない。

俺は歩いた。
20km、20km、40km。

3日後にはボロボロになっていた。
歩いても歩いてもたどり着かない目的地。

やっていない飲食店。
貸し出していない状態のトイレ。

山、山、どこまでいっても山。
青春している高校生。
手をつなぐカップル。

全身黒で、黒の帽子で、マスクをしている俺。
でかい鞄を持っている不審者。

周りの景色は町から村へ、村から、人の歩いていない山奥へと変化していった。
森のにおいがする。

よく分からない種類の虫たちが周りを飛ぶ。
キャンプ民がうろうろとしている。

何も…考えられなかった。

遠くに富士山が見えた。
ここは逆さ富士の見えるスポットのようだ。

ずいぶん曇っているけれど、遠くに見えるのは富士山だった。
富士山の永久凍土はだんだんすくなっていて、10年後には超やばいという記事を
どこかで見ていたのだが、今がその10年後だった。

俺の目で見たその富士山の永久凍土は、超、やばかった。