白みかん

白みかんは、おいしいみかん。みかんを剥くのがうまいよ。

日本縦断5日間の旅



11月某日。
なかなかこの1週間は長く感じる。
あまりない体験をすると脳みそがその記憶を保存しようと頑張るからだろうか。
ある週の月曜日、俺は東京行きの新幹線へと乗り込んだ。
この行為はいわゆる出張に当たるが本当の意味で俺が意味のある出張をしたことはいまだない。
本当に出張という行為が世の中に必要なのはどんなタイミングなのだろうか、と思う。

同級生と話している時に彼女はよく出張するのだと聞いた。
その理由を尋ねると「先方は機械が苦手だからリモート会議ができない」と返ってきた。
そんなことで何時間も何万円も無駄にするのはどうかと思うがね。
流行りのSDGsにも思い切り反しているよ。

流行りのSDGsはなぜ流行っているか。
メディアが頑張ったからかもしれないが
なんだかおしゃれな雰囲気を醸しているのも確かである。
社会を動かすってすごい。

そうして俺は東京にまたたどり着いた。
往復には慣れたものだった。
だが、ふとエスカレーターの左側に足を運ばせたとき
周囲が右側に乗っていることに気づく。

3年過ごしたうちに左側に慣れていたはずなのに
俺はもう右側に乗ることが自然になっていた。
ああ、東京にいた俺はもう消えてしまったらしい。

それでも今の自分がすべて。

1日目のホテルにてチェックインを済ませる。会社のカードを差し出す。
パスコードの入力などはない。一体このカードはどうなっているんだ。
よく分からない。とにかく高いカードであることだけは確かだった。

311号室に入る。俺は荷物を置いた。
テレビをつけてみた。
よく分からない番組が映っていた。
俺は備え付けのシャワーを浴びて眠った。

2日目。会社に出社した。
何階建てかよく分からないビルの10階以上の場所で
みんなが優雅にパソコンを叩いていた。
俺は会社員なのでフリースペースではなく、会社が借りているエリアに移動した。
フリースペースのほうがおしゃれである。
しかし、フリースペースにいる人たちはどういうタイプの職業なのだろう。
経験上、IT企業は守秘義務が厳格であるため、パソコンを公の場で開かない。
これは唯一のプロフェッショナリズムみたいなもので、むしろ電車や駅の中で忙しそうにパソコンを叩いている連中は
IT意識に欠けているといえるかもしれない。
よほどいそがしくなってしまうとまた別なのだろうか。

2日目がおわる。
人に会う予定があったが、その予定はつぶれる。
なかなかうまくいかないものだ。

3日目。4時ごろに目が覚める。
なんだか暑い。
カーテンを開けてほしかったのでアレクサの名前を呼んだ。
アレクサはこの部屋にはなく、俺の呼んだ名前だけが宙に浮いてそのまま消える。

アレクサのいない部屋で君の名前を呼ぶことが君の貢献度を教えてくれる。
いなくなってから、人はその価値に気づく。

出社した。
その日、チームメンバーもまた出社していた。
ずいぶん出社してイメージが変わった。
以前の配属先では出社してイメージがむしろ悪くなったものだったが
今回の配属先ではむしろ見た目が若い人が多く、自分の至らなさにさらに気が付いたのだった。

ジェネギャ…か。

前職と同じ職場で俺の前職と深いかかわりを持つ人がいた。
飲み会で話す機会は残念ながらなかった。
この日は飲み会だった。
俺は主にチームメンバーと話した。
2次会にはいかなかった。

仕事というのは仕事関係の話題から派生して
仲良くなっていくんじゃないかなあと思う。
だが、仕事に対するスキルが弱すぎる俺は、なんかあれだった。

夜は大浴場…浴場に行った。
オジサン2人と俺の3人が浴場につかる。
オジサンというのはどうしてこんなに太っている人が多いのだろう。
そのうち、俺もこのようになるのだろうか?

4日目。4時に起きた。
テレビをつけてみたが放送休止時間であるため、
ずっとカラフルな帯とピーという音だけが流れていた。
俺はそれをしばらく眺めた後別の作業を始めた。

10時ごろに部屋を出て東京外国語大学の学園祭に足を運ぶ。
大学というのはいいものだ。
具体的に何がいいものかを語ることは具体的にはできないけれど。

16時に寿司屋にいって寿司を食べた。
待ったかいがあり、かなりの量を食べた気がする。
ラーメンが、うまい。
うどんみたいな見た目をしているからだろうか。

21時にカフェが閉店し、解散した。
東京で得た同期のうち、会いやすいのは2名。
2名だけでも残ったことは意味のあることだと思う。
こうして5日間の空白を埋めてくれるのだから。

5日目。5時に起きた。
俺は朝の浴場に向かった。
誰もいなかった。
俺は浴場の真ん中で足を広げる。
浴場に長い時間つかるというのも最近はなかなかない経験である。

家で浴槽に水を張るというのは
どうにももったいない気になってしまう。

しばらく浸かっていると、手先が妙に熱くなってくるのを感じる。
血が巡っているのだろうか?
少し気分がいいかもしれない。

さすがに家から離れすぎているか、肌荒れしてきた。
あれだけのお金を使ったにもかかわらず、俺はいまだに薬やいろいろなものに頼らないと
すぐに肌荒れしてしまう。弱い遺伝子だった。

13時ごろについた駅で後輩と出会う。
彼女との会話のペースが最初、つかめなかった。
そして最後までつかめなかった。

さすがに歩きすぎたからか、ホテルに帰ってきて俺はすぐに眠った。
充実していたように思う。

一番驚いたのは俺の見た目を俺の知らないところで知っている人がいるという
なんとも奇妙な現象についてだった。