「左」。
「あっ…なるほど」。
インターネットECサイトで購入した500円の数珠の使い方を指摘された昼前の墓地。
祖父が亡くなってから四十九日法要だった。
俺は日本のこういうめちゃくちゃな宗教観が嫌いだった。
冠婚葬祭なんて一番嫌いだというのに、なぜ俺は就職活動で面接を受けていたのだろう。
葬式の時は左手に握っていたはずの数珠は
いつも間にか右手に握られていたらしい。
そんなことを気にして生きていくのは、とても、無為だ。
少年少女たちと一瞬邂逅して、俺は家に戻った。
どうも、ものすごい疲れている。
俺は仕事をしているようで、あんまりしていなかった。
たぶん今年の仕事も続くとは思えない。
続けられるのだろうか。
分からない。
仕事、というか、お金さえあれば、いいのだけれど。
「亡くなったんです」。
オンラインで通話していて不意に話されたのは人の死であった。
遠くにある死が今年に入って2件。
死ぬことなんて身近にないだけで日本にたくさん転がっている。
だから、そこに恐怖を覚えることは、たぶんない。
だが、虚しさだけがそこに残る。
若い命が1つ亡くなった。
老いた命ではなくその命は若かった。
別に俺に関係があるわけではないのだが
そのようなことも人間は軽々と折り合いをつけて生きていくのだ。
死を悼むとはなんだろうか。
冠婚葬祭のマナーを忘れないことだろうか。
俺はこの世界の不文律が気持ち悪い。
繕う人たちが怖い。
これで生きていくことなど、できるのだろうか。