午前2時。
時折、気の狂いそうな気持ちになり必死で手を伸ばすとそこには壁紙の剥がれかけた小さな部屋があった。
起きた。
待ちに待ったベッドの引き渡しである。
「早めに早めに」と連絡するものだから、「じゃあ6時30分だ」と返すと了承したということだった。
だから早めに起きないといけないのは確かだが、こんなに早くなくてよい。
うどんを茹でた。
白菜の期限が、近い。
まだ白んでもいない空の下には、沈殿した塵芥のような街灯がちらちらとこちらに合図を送っていた。俺はそれを無視した。
タイマーが鳴る。
タイマーほど意味のないものはない。大抵、タイマーは鳴るのを待ち構えていた俺に止められる。
解体していたパーツを一つ一つ廊下に運び出していく。鉄が擦れる音がして、起き抜けの耳の奥へと響いていった。
受け渡す相手は18分前に現れた。決して流暢ではない日本語を話す女性だった。その奥には骨を折りまくったであろう松葉杖をついた巨漢の男がいた。男の表情は大きなサングラスで隠されている。
女性と言葉を交わしながら、パーツを運び出していく。俺は適当な相づちをうった。
「クルマ、いるか?」
「え?なに?」
「クルマ」
クルマ。
女性の言葉をよくよく聞くと四輪車のとこを指しているらしい。
「電話番号教えるか?」
「いや、いいよ」
「いいか」
女性はあっさりと引き下がっていった。
こうして、俺の部屋を席巻していたロフトベッドは姿を消したのであった。
ありがとう、ロフトベッド。
もう君には会いたくない。